
三月と九月の気候が穏やかになるお彼岸の季節には、多くの方がお墓参りをされます。
「彼岸」とは、もとより私たちのご先祖が往生された阿弥陀仏の極楽浄土をあらわす言葉です。この安らかな世界である「彼岸」に対して、苦悩が絶えないこの世界を「此岸」といいます。
中国の高僧である善導大師は、ご先祖が往生された「彼岸」は西に、私たちが暮らす「此岸」は東にあると説かれました。
一年に二度、春分の日と秋分の日には、太陽が真東から昇り、真西へと沈んでいきます。そのため、この日は「彼岸」と「此岸」、つまり「死」と「生」の世界とが最も近づく日であると考えられてきました。
私たちのご先祖は遠い昔から、この日の夕焼けに染まりゆく西方の情景に極楽浄土を想い、自身のいのちの行く末に思いをはせ、先に往生された大切な人を偲ばれてきました。
そして、この日から前後それぞれ三日にわたる七日間を、「お彼岸」という仏教の期間とし、心を静め丁寧に仏事を行ってこられたのです。
普段は何かと目先のことに追われ、日々のあり方や、いのちのゆく末を問うこともなく過ごしがちな私たちです。この「死」と「生」が近づくお彼岸においては、極楽浄土で仏さまとなられた方から、私たちに向けられた「どうか善い人生をおくって欲しい」という願いに心を向けてみてはいかがでしょう。
皆さまの、仏さまに願われたこの人生が、美しい夕日のように豊かで悔いのないものになりますよう、心より念じております。